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autobiography.
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私たちは、下のフロアを見下ろしながら空いている席を探した。リズムを刻んだ、ジャンルの解析不能な音楽の音量が大きすぎて、いつもより大きな声で顔を近づけてしゃべらなければいけなかった。時間が経つにつれ、会場のボルテージは次第に高揚していっているのがわかる。ステージ付近には、ギター、サックス、ノートパソコンや見慣れない楽器が息をひそめるように配置されていて、丁寧なお辞儀をしているかのように凛としたようすである。この待ち時間がなんとも奇妙な雰囲気を作り出す。先の居酒屋で感じた雰囲気とはまた別の、熱気を帯びた、体中にまとわりつくかのようなそんな雰囲気だ。この世の興奮をかき集め、栓に蓋をしたかのような圧迫感。夢に出てきたキップの装置がまた頭を過る。さしずめこの雰囲気、熱気、情動、そういったものが最上部にあり、私たち人間が固体として中座しているのだろう。もしライブが始まれば気体である興奮と熱気が、固体である私たち観衆と混ざり合い、新たなカテゴリーを孕んだ統一性空間ができあがるだろう。今まさに、変わり目の線上にいる。
 ふとその緊迫した雰囲気の間隙を縫って一筋の線が横切った。不確定要素を持った、音である。ステージの奥から一人の男が現れて、ギターのチューニングをし始めたのだ。不確定要素の音は次第に市民権を得たかのように慣れ始め、リズムが生まれた。やさしいゆったりとした立ち上がりだ。すると奥からもう一人女の子が現れ、センターにあるマイクを手に取るとその場でしゃがみこんだ。巴の友達だ。やさしいメロディーに合わせてゆっくりと息をはくように声を出し始めた。透き通る声。先ほど彼女から発した高慢な声とは全く質が違う。
 

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「巴、来てくれたんだ。」
人種のるつぼの中をすり抜けるように高慢な声が聞こえてきた。

「あと30分で始まるからね。緊張するわ。あっしの声は絶好調ばい。でも最近タイトなスケジュールで疲れるわ。巴、少し見ないうちに大人っぽくなったんじゃない?」

「久しぶりー。そんなことないよ。まだまだ子供扱いされるし。ここのライブハウスいいところだよね。」

「そうそう、Japcoreいいよね。オーナーはヒッピーみたいな人だけどね。じゃあまあ楽しんでいってね。あとで感想よろしく!」

「うん、がんばっちー。」

そのデザイン科の子はパンクな恰好、いわゆるトゲトゲファッションをしていたがこの場になぜかしっくりとはまっていた。逆に私や巴のファッションはここでは市民権を得ることができそうにない、完全なるアウェイである。そんなこといつも気にはしないのだが、ここまで排他されると嫌でも頭をよぎる。みんな、自分はすごい、とアピールせんがごとくで、暗に私を否定してくるかのようである。

「このみ、中に入ろう。」
この異空間に物怖じしない巴が逞しく見える。私たちは受付でお金を支払い、再入場のためのスタンプを手の甲に押してもらい、中に入った。

 中の構造としては、中2階建てで、それほど広くはないが、バー用とステージ用とでフロアが2つに分かれていた。2階建てといっても地下にフロアがあり、受付は1階にある

 

「Japcore」
高架下にひっそりとあるライブハウス。道中巴と何を話したのか覚えていない。きっとそのデザイン科の友達の話だろう。私は傘とぶつかりあってはじける、雨の音を終始聞いていた。バサバタ、バサバタ。少し肌寒くなってきたところで巴が、着いたよ、と言った。ライブハウスの外は開演を前に外で一服煙草を吸っている、奇抜な恰好の人種が支配していた

ああ、巴。脈打つ情動が私の背中を押す。
この場はやはり私にはふさわしくない。どこか静かな場所へ行きたい。どこか遠回りの記憶が生まれる場所へ。

「ねえ、さっきからウーロン茶ばかり飲んで~。やい、ややい!」

巴だ。ビール5杯に梅酒をロックで2杯、おまけに勧められたウィスキーを片手に持ちながら、もう片方の手を私の肩に回して絡んできた。

「このみはいつもクールだねい。まあそこが好きなんだけどね。
 ねえ、今からライブに行かない?デザイン科の友達が今日ライブで歌を歌うんだって。このみ、歌好きでしょ?1ドリンク付きで1000円っちゃ。」

このままここにいても退屈、そう思い私はライブに行くことにした。  
「まあ、行ってやるか。」

「決まり~。えへへ。」

 
 私たちは先に会計を済ませ、店の外に出た。雨はまだその勢力を失わず、間断なく降っていた。雨。本当はどこまででも下へ下へと行きたいだろうに。私には雨が、無数の念がその思いを届けることなく飛び散る下向きの花火に見える。マグリットならきっとわかってくれるだろう。

「このみ、濡れるよ。入りなよ。相合傘~」
「ありがとう」

私たちはそのライブハウスへと向かった。
 

 

「みなさん、シンデレラご到着したところで乾杯といきますか。
 粋なみなさん、お手持ちのグラスをMAXで飲み干しましょう。
 あっ、わたくし林と申します。どうぞよろしく~。乾杯!」

まるでこの後の情事を期待しているかのようにビールを食前酒として飲み干す。
こいつらの心情を今デッサンしたら、きっとリアルに描けるだろうに。




彼氏いてんの?
…いない


趣味は
…人間観察




…意味のない会話




…巴は楽しそうだ




…手あかがつくぐらいのスキンシップ




…ウーロン茶、氷なし




…高笑いのバックミュージック




…ああ、セザンヌ




…野放図な蔓延




…見栄坊




…スノピズム




…御恩と奉公




しだいに酩酊状態となっていった。
素面はわたしだけ。 乱痴気騒ぎとまではいかないが、舵を失った社交性は酔いの波に呑まれ、都合のいい雰囲気が漏えいしだしていた。




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